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東京高等裁判所 昭和34年(う)1328号 判決 1961年8月03日

控訴人 検察官 岡崎格

被告人 石井一昌 外六名 弁護人 真田康平

検察官 小山田寛直 鯉沼昌三

主文

原判決中被告人佐郷屋嘉昭に対する有罪部分及び同被告人に対する昭和三十年十二月二十四日附起訴に係る暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の公訴事実につき無罪を言い渡した部分を破棄する。

被告人佐郷屋嘉昭を懲役三年に処する。

但し本裁判確定の日より五年間右刑の執行を猶予する。

検察官の被告人松木良勝、同小島玄之、同辻宣夫に対する各本件控訴、及び被告人石井一昌、同辻晋、同石井四郎の各本件控訴はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用中原審及び当証人高木秀男に支給した分は被告人佐郷屋嘉昭の負担とし、当審証人の木内智及び同中山明に各支給した分は被告人石井一昌の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、東京地方検察庁検事正代理検事岡崎格及び弁護人真田康平作成名義の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。

弁護人の論旨第二点の二について。

次に所論は原判決判示第十のうち十二番猟銃用散弾実包二十発については、被告人石井一昌において昭和二十九年頃福島県より狩猟免許を受けた際狩猟用として火薬類取締法第十七条第一項第三号により譲り受けたものであるから、同法第二十二条の違反となるは格別同法第二十一条の違反とはならないのに、同被告人を同法第二十一条第五十九条に問擬した原判決は法令の適用を誤つたものであると主張する。よつて按ずるに、なる程記録によれば、所論の実砲二十発は被告人石井一昌が昭和二十九年度に福島県より狩猟免許を受けた際狩猟用として火薬類取締法第十七条第一項第三号により譲り受けたものであることが、窺われ、また、火薬類取締法第二十二条は狩猟法第三条の規定による狩猟免許を受けた者であつて装薬銃を使用するものが、狩猟免状の有効期間満了の際火薬類を所持する場合において、その満了の日から一年を経過したときは遅滞なくその火薬類を譲り渡し又は廃棄しなければならない旨規定し、これに違反して遅滞なく譲渡又は廃棄しないときは同条違反として同法第六十条により処罰せられるのであるが、火薬類の所持を禁止する同法第二十一条はその第八号において、火薬類を所持することができる者が、第二十二条の規定に該当し譲渡又は廃棄をしなければならない場合に、その措置をする迄の間所持するときは、これを除外事由としてその所持を許している法意に鑑みるときは、単に同法第二十二条所定の期間経過後遅滞なく譲渡又は廃棄をしない場合は同条違反となるが、右期間経過後譲渡又は廃棄する意思なくして更にその所持を続けるときは同法第二十一条の違反として処罰する趣旨と解すべきである。被告人石井一昌は前記の如く昭和二十九年度の狩猟免状を得たものであるから、狩猟法第五条によりその免状の有効期間は同年十月十五日から翌三十年四月十五日迄であり、その後一年を経過した日即ち昭和三十一年四月十五日後遅滞なく譲渡又は廃棄しなければならないのに拘らず、原判決挙示の対応証拠によれば、被告人石井一昌は右昭和三十一年四月十五日後においてもこれを他に譲渡し又は廃棄する意思なく、更にその後一年有余を経過した昭和三十二年五月一日第二十八回メーデー当日東京都新宿区市ケ谷田町三丁目の護国団青年隊総本部から小型貨物自動車に猟銃、日本刀等を積み数名の同隊員と共に同乗し、運転者諏佐博をしてメーデー行進の行われるコースに近い同都港区芝新橋二丁目附近まで運転させた際、右実包二十発をつめた弾帯を自己の腹部に巻きつけ所持していたことが明らかであるから、右実包の所持を火薬類取締法第二十一条第五十九条に問擬した原判決は正当であつて、原判決に所論のような法令適用の誤はないから論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 岩田誠 判事 渡辺辰吉 判事 秋葉雄治)

弁護人真田康平の控訴趣意

第二点の二 原判決は判示第十において、

被告人石井一昌は、法定の除外事由がないのに、昭和三十二年五月一日午前十時頃から正午頃までの間東京都新宿区市ケ谷田町三丁目十八番地護国団青年隊総本部から同都港区芝新橋二丁目二十六番地附近路上に至る間において二二口径レミントン五五〇-一型ライフル銃一挺(第四〇三六号、被告人が同年三月頃不二越銃砲店から買受け所持許可申請中のもの)(昭和三二年証第一三三二号の三)、二二口径ブローニング・ライフル銃一挺(第二〇五七三号、石井四郎に対し所持の許可が為されているもの)(同証号の一五)及び十二番猟銃用散弾実包二十発(被告人に対する昭和二十九年度の狩猟免状の有効期間満了の日から一年以上を経過し、且つ譲渡又は廃棄の措置をとるまでの間の所持ではないもの)(同証号の八、内三発は鑑定のため分解検査に供し空包)を所持しと認定し、銃所持の点は銃砲刀剣類等所持取締法附則第九項、銃砲刀剣類等所持取締令第二条第二十六条第一号実包所持の点は火薬類取締法第二十一条第五十九条第二号を適用したが、

(一) 判示事実のうち二二口径レミントン五五〇ノ一型ライフル統一挺は原審において証拠として提出した神楽坂警察署の証明書にも記載してあるように、同被告人は判示日時においては所持を許可されていたものである。

(二) 又判示事実中実包については、同被告人は本件実包を、昭和二十九年頃福島県より狩猟免許を受けた際狩猟用として譲受けたもので、同被告人は狩猟法第三条による狩猟免許を福島県知事より受け、火薬類取締法第十七条一項三号によりこの実包を譲受けたのであるから、同被告人の本件実包の所持は判示のように同法第二十一条の違反とはならない。狩猟免許を受けた者の免許状の有効期間は狩猟法第五条に規定するように、十月十五日より翌年四月十五日までで、狩猟免許を受けた者が火薬類取締法第十七条により譲受けた火薬類にして、狩猟免状の有効期間満了の際所持しておつたなら火薬類取締法第二十二条によりその期間満了の日から一年を経過したときに遅滞なくこの残火薬類を譲り渡し、又は廃棄しなければならぬのであつて、この規定に反して残火薬類をその后引続き所持していても、同法第二十二条の違反となり、同法第六十条の罰則の適用を受けるかも知れぬが、同法第二十一条の違反となり同法第五十九条の罰則の適用を受けるものではない。

(三) 然るに、原判決が銃所持の点につき、銃砲刀剣類等所持取締法附則第九項、銃砲刀剣類等所持取締令第二条第二十六条第一項、実包所持の点につき、火薬類取締法第二十一条第五十九条第二号を適用したのは法令の適用を誤つたものにして破毀せらるべきものと信ずる。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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